主宰者メッセージ


合唱団Neue Naturへの思い

主宰者・指揮者 田村嘉崇

 私の合唱指揮活動は60年以上前の高校生音楽部時代から始まり現在に至ります。なぜこんなに永く続けられたのかと顧みますと、音楽愛好家の皆さんと同じ「とても音楽が好きで音楽との出会いによって感動し幸せになれるから」という事です。それと、歌うことの大好きな方々との出会とその活動によって音楽表現へ情熱が沸き上がり、限りない音楽への喜びを共に求めつづける活動に支えられているからだと思っています。

 今をもって自分の非力に悩む期間が永遠と続くわけですが、それでも長年の間に合唱活動の姿勢が変化しました。高等学校の音楽科教員として活動、指導主事としての活動、大学教員としての活動、それぞれの立場の任務を一応果たしては来たものの、全てその時代の音楽的環境や社会状態と、自分の指導者としての音楽的実力の乏しさと、さらに人間的なメンタルメンが演奏の成果に現れます。
 それは自分一人の活動成果でなく、出会った歌好きのメンバーによっての得難い共同作業による成果であり、その成果の善し悪しは指導者の力とそれを信じ共感し喜びを共有できるメンバーとの出会いによると痛感しています。これらのことは、無我夢中であった高校教員時代も今も変わる事ではありません。では何が変わったのか。
 音楽表現へのアプローチの仕方、つまり合唱表現に最適な声とは、豊かな自然な美しく響くハーモニーはどのような声で生まれるのかと、目指す声の目標とアプローチの仕方が徐々に体感出来るようになって来た事と、その判断力である耳が出来て来たように思う事です。

 変化のきっかけは50歳から武庫川女子大学に助教授として奉職させて頂き、大学の教員としての研究の機会に恵まれ、声楽家でもない私のプレッシャーであった発声法の勉強に参加出来た事です。
 関西二期会の声楽家井上洋史の勧めで、世界で活躍されている森晶彦先生(現在ウイーン音楽アカデミー教授)の発声法合宿に参加。この森先生との出会いは、合唱指導を続けて来た私の今迄を根本的に改め覆すことなりました。その指導を仰ぎ続けるうち、合唱に求める声のイメージ、声はその人の力量と心をそのまま表現する。合唱に必要な声はどんな声か、独唱と合唱との歌い方に共通するもの、夫々個別に求められるもの等、それはどうすれば生まれるのか、それらの難しさを強烈に感じ過去の指導方法の過ちを抹殺しなければならないところに追い込まれました。
 私たち日本人には音楽的な内容の豊かさを頑張ることで覆ってしまうことが聴衆や演奏者にどれほど多いことでしょう。通常の傾向として迫力ある表現にはハーモニーに濁りが加わり易く、それでも音量故に豊かなハーモニーだったとおぼろげ感じてしまうのです。
 グレゴリオ聖歌を土台に、一糸乱れず解け合う正確な音程による響きを大切に育んで来たヨーロッパ人の音楽を聞く耳、正しい発声に関する判断の出来る耳、永く深い歴史に育まれたヨーロッパ人と同じ音楽を聞く力を持つ事こそ外国曲特に宗教的音楽の演奏に欠かせない事、音楽はとても自然なものであるべきだと気づいたのです。歌い手が力以上に歌おうとすると声は濁りその力む気持ちが相手に伝わり表現されるべき音楽の姿が失せてしまうからです。  

 Neue Natur(新らたな気持ちで・自然な声で歌おう)を私自ら主宰し設立した理由は、学び続ける発声法を生かした自然な心地よい声、美しい柔らかい空気にとけ込むハーモニーを求め、素晴らしい響きと精神に満ちあふれた宗教的音楽と、私たち自らの心のふるさとに出会える邦人作品を中心に、素敵な合唱曲を心から生まれる色合いの表現できる合唱活動を力つきるまで続けたいという思いからなのです。時代に流されず、歴史的に価値のある名曲に取り組み、その思いに賛同し体現しようとして下さる皆さんの集合体がNeue Naturであり、私の宝であり、生きるエネルギーの源なのです。

       結団9年目を迎え感謝を込めて     2016年4月 吉日